ていない(て居ない)

13/01/2016 19:35

てゐない」]
接続助詞」+動詞いる(居る)」の未然形い(居)」+助動詞ない」。

でいない(で居ない)

用例

[発表年順]
「ていない(て居ない)」用例(1909)
  数馬
傍輩から、外記自分推してこのたび当らせたのだ聞くや否や即時に討死しよう決心したそれどうしても動かすこと出来ぬほど堅固な決心であった。外記ご恩報じさせると言ったということであるこのはからず聞いたのであるが実は聞くまでもない、外記薦めるにはそう言って薦めるにきまっているこう思う、数馬立ってもすわってもいられぬような気がする自分先代引立てこうむったには違いないしかし元服してからのち自分いわば大勢近習うち一人別に出色扱い受けていないには誰も浴しているご恩報じ自分に限ってしなくてはならぬというのはどういう意味言うまでもない自分殉死するはずであったのに殉死しなかったから命がけ場所やるというのである何時でも喜んで棄てるさきにしおくれた殉死代りに死のうとは思わない惜しまぬ自分なんで先代中陰果て惜しんだであろういわれないことである畢竟どれだけ入懇になった殉死するというはっきりしたない同じように勤めていた近習若侍うちに殉死沙汰ないので自分ながらえていた殉死してよいことなら自分よりもさきにするそれほどことにも見えているように思っていたそれにとうにするはず殉死せずにいた人間として極印打たれたのはかえすがえすも口惜しい自分すすぐこと出来ぬ汚れ受けたそれほど加えることあの外記でなくては出来まい。外記としてはさもあるべきことであるしかし殿様なぜそれお聴きいれになった。外記傷つけられたのは忍ぶこと出来よう殿様棄てられたのは忍ぶこと出来ない島原乗り入ろうとしたとき先代お呼び止めなされたそれ馬廻りものわざと先手加わるお止めなされたのであるこのたび当主怪我するなおっしゃるのはそれとは違う惜しいいたわれおっしゃるのであるそれなんのありがたかろう古い新たに鞭うたれるようなものであるただ一刻早く死にたい死んですすがれる汚れではない死にたい犬死でもよいから死にたい
森鷗外阿部一族」1913)

 信子
女子大学ゐたから才媛名声担つてゐた彼女早晩作家として文壇打つて出る《ほとんど》誰も疑はなかつた中には彼女在学中既に三百かの自叙伝小説書き上げたなど吹聴して歩くものあつた学校卒業して見るまだ女学校ゐない照子彼女とを抱へて後家立て通して来た手前さう我儘《わがまま》云はれない複雑な事情ないではなかつたそこで彼女創作始めるまづ世間習慣通り縁談からきめてかかるべく余儀なくされた
芥川龍之介」1920、冒頭
灝気《こうき》薄明《うすあかり》優《やさ》しく会釈しようとして
新しく活溌《かっぱつ》に打っている
こら下界お前ゆうべ曠《むなしゅ》うしなかった
そしてけさ疲《つかれ》直って己《おれ》している
もう快楽を以て取り巻きはじめる
断えず最高存在志ざして
力強い決心働かせているなあ
ファウスト第二部
序曲
六月十日 にて
 御無沙汰いたしました今月初めから当地滞在しておりますからよくこんな初夏一度この高原来てみたいものだ言っていましたやっと今度その宿望かなった訣《わけ》ですまだ誰もいないので淋しいことはそりあ淋しいけれど毎日気持よい朝夕送っています
堀辰雄「美しい村」1933-34、冒頭
「ていない(て居ない)」用例(1977)
 子どもたち集まって何かして遊ぼうとするとき隠れん坊しないで複数オニオニすることには見過ごし難い意味ありそうだ隠れん坊藤田省三或る喪失経験――隠れん坊精神史という論文(『精神史的考察平凡社一九八二所収述べたように人生凝縮して型取りした身体ゲームであるオニひとり荒野彷徨隠れるどこか籠るという対照的な構図あるけれどもいずれも同じ社会から引き離される経験でありオニ隠れていた見つけることによって仲間いる社会復帰隠れたオニ見つけてもらうことによって擬似的な世界から蘇生して社会戻ることができる隠れん坊子ども遊び世界から消えること子どもたち相互役割演じ遊ぶことによって自他再生させつつ社会復帰する演習経験失うということであるたしかに複数オニオニおこなわれているけれどもそれらもはや普通隠れん坊退屈さ救うためにアクセントつけたといったていどことではない
 小学六年男の子から聞いた翻案すれば、「複数オニ演習主題裏切りであるオニつぶってかぞえている子どもたちいっせいに逃げるそれぞれ隠れ場所工夫しても同じ方向逃げれば近くいる同士互いにどの辺隠れている知っているそのとき一方見つかれば即座にオニというスパイ変じて寸秒仲間だった隠れ家あばくことになる近く隠れたとの仲間意識裏切り裏切られる恒常的な不安によって脅かされている連帯裏切りとの相互変換半所属不安産み出しその不安抑えこもうとして裏切り者残党狩りいっそう過酷なものなるオニ聖なる媒介者であることやめて秘密警察転じ隠れる一人ひとり癒し難い離隔深めつつ仲間スパイ抱えた逃亡者集団化す
(村上春樹「UFO釧路降りる」1999、冒頭
[発表年未詳・筆者生年順]
讀み乍ら東北人たる作者西國土地書いてゐること感じた眞實即した立場から云ふ西國地方色西國人らしい情調乏しい云つていゝ默阿彌島千鳥松島千太明石島藏には大まかながらも東北人中國人との面目現はれてゐる徳富蘆花黒潮出て來る肥後人長州人にも何處となくその出生地面影見られる眞山新作人物には土佐つぼらしいところ長州人らしいところさう現はれゐないやうである言葉佐訛り薩長土語殆んど用ひなかつたのは取つて付けたやうに所々用ひるよりも却つてサッパリしていゝのであるがそれにしても臺詞臭ひない田舍青武士一知半解理窟振り廻してあばれてゐるにしては臺詞調ひ過ぎてゐる中村吉藏井伊大老など幕末物西國武士無器用な締りない臺詞どことなくあの若い下級武士らしい趣きあつたやうに思ふ
正宗白鳥(1879-1962)「文藝時評真山青果坂本龍馬」」)